Stadiums with Membrane Structures for 2002 FIFA World Cup KOREA / JAPAN TM
小笠山総合運動公園 静岡スタジアム エコパ
インタビュー 図版
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所在地: 静岡県袋井市愛野
設計: 佐藤総合計画・斎藤公男設計共同企業体
施工: 第1工区:鹿島・竹中・若杉・丸明JV
第2工区:住友・戸塚JV
第3工区:大林・木内・須山・川島JV
第4工区:錢高・石川JV
用途: サッカー、陸上
建築面積: 31,777m2
延床面積: 83,278m2
構造: 上部架構:鉄骨造
本体屋根構造:てんびん構造片持ち鋼管トラス
下部スタンド架構:鉄骨鉄筋コンクリート造一部鉄筋コンクリート造
膜種類: 四フッ化エチレン樹脂コーティングガラス繊維布
膜面積: 23,000m2
スタンド傾斜角度: 最大32.5°
階数: 地下1階 地上6階
竣工: 2001年3月竣工
収容人員: 50,000席

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インタビュー 斎藤公男+小林登志夫(佐藤総合計画)
(インタビュアー:高橋真)

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森の構造体/小笠山総合運動公園 静岡スタジアム エコパ
森とスタジアムの風景
エコパは巨大なサッカースタジアムです。FIFA(国際サッカー連盟)の公式戦が出来る天然芝のピッチを、陸上競技のトラックが取り巻き、4万4,500人を収容するスタンドの固定席すべてを覆う屋根が取り付けられているのですから、その大きさは想像に難くありません。
東名高速道路を降りてスタジアムに向かう途中、国道1号線のバイパスを走行中にそれは現れました。遠い山並みの中に、大きなスタジアムが意外に違和感なく、むしろ控えめなほど風景に収まっていました。周辺の山や樹木のつくる稜線とは異質な鉄骨と白い膜構造の建築物ですが、意外にも、風景と連続して見えたのです。
その後しばらく、スタジアムは道から見えなくなり、バイパスを降りて、新設のアプローチ道路をたどるころ、施設はその全貌をあらわしました。それはやはり巨大な建造物ではあったのですが、巨大な固まりとは見えない、ちょっと不思議な構造体でした。「森のような建物だ」というのがエコパを訪れたときの第一印象でした。

地形になじんだ施設計画
photo エコパを特徴づけるユニークな屋根架構について述べる前に、この建物のみならず施設全体(小笠山総合運動公園)を特徴付けるランドスケープの考え方に触れないわけにはいきません。それらは、ひとつの大きな設計の流れの中に位置づけられているもののように思われるからです。
この施設は穏やかな山並みの中腹に作られています。平坦な場所に計画されたのではなく、起伏を持った自然の地形の中で計画されていることがこの施設を際だたせています。道路からの遠景、施設へのアプローチ道路と施設の位置関係の巧みさなどからそれは感じ取れます。また、よく見れば、スタジアムそのものも山側の半分は、地形の中に埋められています。造成費用の節約などの名目もあるでしょうが、地形へのなじみや、アプローチのシークェンスの連続感にもつながるこの施設全体のランドスケープへの配慮が見て取れるのです。
広場を挟んで作られているメインアリーナ等の施設は、広場に対して地形に代わる「押さえ」となっています。

木漏れ陽のスタンド
photo そのようにランドスケープデザインの中で計画されたスタジアムですから、エコパは主張する形態や、強い象徴性を持つ建物ではありません。ピッチとトラックの長手に高く、両端部に低くなるスタンド席を緩やかなカーブでつないだ自然なウェーブ状の形態を形作っています。現実的な内容を素直に形態化した穏やかなフォルムではありますが、それを作るとなると大変です。矩形には強い建築の技術は、どちらかというと自然な形に弱いのです。しかも客席部分のほぼすべてに観戦の妨げにならない屋根をかけなければなりません。
自由な曲線が作る形態に沿って、ひとつの大構造体(メガストラクチャー)による大屋根をかけることも可能でしょう。しかしここで設計者たちはそれをせず、それぞれが独立した構造体を、自由な形態の建築に沿って数多く立て、その間にサブフレームを渡してモジュール化された膜屋根をかけたのでした。
屋根はスタンド席の上端部からグラウンド方向に持ち出された鉄骨のトラス梁によって支えられています。工事現場のタワークレーンがスタジアムの周辺に沿って等間隔に立てられていると思えばわかりやすい姿ですが、それぞれの架構がV字型の柱によって連続して作られています。
鉄骨柱の頂部、屋根架構の台座部分はコンクリート造のスタンドに打ち込まれ、頂部を結ぶ鉄骨の梁にはPCのカバーがかけられます。PCの部品は鉄骨のカバーだけでなく、スタンド席の床版にも多用されています。
これらの構造体は、スタジアムの周辺に沿って配置されています。株立ちの樹木を思わせる鋼管の幹から、スタンドの上部にトラスの大きな枝を伸ばし、小枝のように細い部材のサブフレームを介して膜構造の屋根を支えます。
そして、このような独立した構造体が、ウェーブ状の曲面を持つスタジアムの縁に沿って立てられてゆくことで、自然な曲線の形態は、あたかも個々の樹木が集まって森のシルエットを作るように、ランドスケープの中に柔らかい建築の形態を作り上げるのです。
そして透光性のある軽い膜構造の屋根が柔らかい自由な形態に沿ってかけられ、強い日差しや雨を樹木の葉のように防ぎます。

森を作っている樹木
photo また、この構造体は、単純明快な施工への配慮という点でも際だっています。
屋根トラスは岡組み(地面の上で寝かして組み立てること)された上で、巨大なクレーンを1基だけ使い、仮設なしで一気に柱頂部に上げられたとのことです。更にトラスに代わって鉄板を貼られた片持ち梁の上部は、それ自体サブフレームと膜屋根施工の作業構台に使われています。柱頂部に据えられたフレームからバックステイケーブルと呼ばれる張力材を柱の足許に固定するだけで自重による張力が入り、基本的な架構は出来上がります。むずかしい張力導入はほとんどなく、レベルの調整はバックステーに取り付けられたロッドをわずかに回すだけで済むそうです。客席側に設けられた特殊なダンパーに吹き上げ防止用のロッドをつなぎ張力を入れて完成です。
片持ちのトラス梁と柱頂部の接合部には鋳物を用いています。スタンドの平面にあわせてさまざまな長さがあるトラス梁に対して取り付け角度を固定することにより1種類の鋳造部品で対応しています。
このように構造は大変合理的にできています。そして、木が生長するのに仮設を必要としないように、この構造体も最小限の仮設で施工することが出来るのです。そのことはこの構造が建築物の「形」に「当てはめられ」ているのではなく、シンプルな構造体が集まって「形」を「作りだし」ていることと無縁ではないように思えます。

群の建築へ
photo 森や群衆のように、個々の要素は単純でわかりやすい樹木や人であっても、集まって形をなすことによって、個々の要素の持っていない新しい力を生み出すことがあります。部分の集合体としてのエコパのデザインの背後には、そんな設計者たちの見識が感じ取られます。そして忘れてはならないのが、部分が作る全体への意志とイメージです。「自然」な形態は決して「成り行き」で出来るものではないのです。
樹木が集まって森を作り森が山の稜線に続いて行くように、その範囲を限定させず人から自然環境に至るまで連続してゆく、そんな新しい建築の萌芽は、きっとこのような建築の森に生まれるのではないかとも思えました。

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■ 屋根伏

■ 5階平面
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■ 架構CG

■ 3階平面
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■ 西立面
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■ 南立面
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