Stadiums with Membrane Structures for 2002 FIFA World Cup KOREA / JAPAN TM
埼玉スタジアム2002
インタビュー 図版
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所在地: 埼玉県さいたま市大字中野田500番地
設計: 梓設計
施工: 鹿島建設
用途: サッカー専用競技場
建築面積: 54,420.00m2
延床面積: 62,674.00m2
構造: 上部架構:SRC造
本体屋根構造:S造(キールトラス+TMトラス)
屋根形式:固定式
下部スタンド架構:RC、SRC造
膜種類: 四フッ化エチレン樹脂コーティング膜(t=0.8mm)
膜面積: 約29,000m2
スタンド傾斜角度: 約15°〜30°
階数: 2層式 地上5階建て(一部地上6階、地下1階)
竣工: 2001年7月31日
収容人員: 63,700人

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インタビュー 馬場英治(梓設計)
(インタビュアー:高橋真)

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市民のためのスタジアム/埼玉スタジアム2002
王様は市民
わずか11人同士の戦いに数万人の大観衆が熱狂するワールドカップでは、その場に居合わせた人々の熱狂が、メディアを介して世界中の人々にリアルタイムで送られます。この熱狂と過剰な消費は、かって特権階級のものでしたが、現在ではその消費者は一般市民と企業に取って代わられました。現代の消費者は市民です。市民社会から生まれた「メディア」は、千里眼を持つ王女様。
埼玉スタジアム2002は2002年のワールドカップの主戦場のひとつとなる63,700席を誇るサッカー専用の大競技場です。徹底した雨水再利用などエコロジーへも配慮したスタジアムは、全席の2/3 にスペースフレームとテフロン膜による屋根が架けられています。しかし、そのユニークな屋根の下には、形だけでなく、「市民の施設」のために積み重ねられた計画と設計が読み取られます。人々が熱狂の時間を安全かつ快適に過ごせるための配慮です。
各国の王侯貴族や国内外のVIPをもてなす席も用意されていますが、このスタジアムの本当の王様は63,700人の市民なのです。

すべての人にとっての安全
photo何しろ63,700人です。始まりはまだしも、ハーフタイムにトイレに立つにせよ、試合が終わって駅に向かうにせよ、集中すれば並大抵の人数ではありません。人々が、個人の判断を失わず、空間の自由度を保っていられる限り、群衆は平静を保ちます。が、情報と空間が失われたとき、パニックに陥った群衆は凶器となります。それを防ぐために、銘々が自分の場所についての情報をいつでも得られるようにする、という民主主義の根幹にも通じる視点に沿って、このスタジアムは計画されています。
フーリガンなどの「元凶」の移動を防ぐという理由もあって、スタンドは4つのセクターに区分けされています。各セクターはそれぞれ4色に色分けされ、ゲートや入り口の案内も色別に表示され、分かり易いものとなっています。
また、異なる役割の人々、例えば選手、報道陣、オフィシャルの人々、それにVIP等の動線も完全に分離されています。それらは階級やスポンサーの偏重といった鼻につくものでなく、安全性という公平な見地に立った、役割と場所の区別なのです。アクセスレベルのデッキは、上下2段のバンクに分かれているスタンドの中間で、内部はスタジアムを一周する広いコンコースです。
観客はゲートを通り、コンコースを経て、スタジアム側の入り口から入場した途端、全スタンドとコンコースのレベル、出入り口を確認できます。それにより自分の席と出口の関係を容易に認識する事が出来るのです。また、コンコースには、必要な場合、緊急車両が直接進入できるそうです。全員避難という事態のシミュレーションでも、全観衆がスタジアムを逃げ出すのに必要な時間は13分で済むそうです。そして逃げ出すことだけでなく、このスタジアムは地域の防災拠点として、災害時に人々が逃げ込む場所とも考えられているのです。例えば2,200m2にもおよぶ防災備蓄倉庫があります。他にも29,000m2の屋根に降った雨水を地下にある雨水貯留槽(約3,000t)に貯留し、発災時にはこれを濾過するなどして、飲料水、その他の生活水に使用することが可能だといいます。

すべての人にとっての快適
また、ここではスタジアムを訪れたすべての人が、快適に観戦を楽しめるような配慮が重ねられています。ピッチぎりぎりまで近づけられたスタンド、米国のスタジアム計画のノウハウによって設定された緩い勾配の下段と勾配を強められた上段2段のバンクはすべての観衆への最大限の臨場感をもたらすよう考えられたものです。観客の視線を遮らぬよう、報道写真のブースすら半分グラウンドに埋められています。スペースの上からはもっと増やすことが出来た席数も、死角を作るおそれのある部分は潔くなくしています。
また、充実したプレス関係者席や施設、選手やオフィシャルの区分など、異なる役割の人々の動線や居場所の徹底した分割も、防災上だけではなくそれぞれの人の使い勝手の快適さを目指しています。役割の異なる人々の錯綜は、危険なだけでなく観戦の快適さを損なう要因にもなるからです。

構成と造形
photoスタジアムの全体構成は明快です。矩形のピッチを円形のスタンドが取り囲み、ピッチの長手の辺に沿って200m近いスパンを飛ばされた、キール(竜骨)と呼ばれる平行な一対の大架構を斜辺として、両スタンドにほぼ直角二等辺三角形の大屋根が架けられます。キールは緩いアーチを形作り、屋根はキールに沿って円筒形を切り抜いた形をしています。等しい2辺はわずかに弧をなしています。平面構成はほぼシンメトリーですが、メインスタンド側の屋根が少し大きく、高く据えられています。テフロン膜を貼られた大屋根は立体トラスのモジュールで、一体の板状(とはいえ厚さは5mもあるのです)に作られています。スタンドを大きく飛び出した大屋根の端部はエントランス部分の庇ともなっていて、この大屋根と緩くカーブしたスタンドとの二重の線が作り出す造形は、このスタジアムに独自の特徴的な表情を与えています。

市民と、これからの市民のために
photoスポーツの文化を支えるものは、施設だけでなく、文字通りフィジカルに参加する多くの市民の力です。このスタジアムに見られるものは、形だけの公共性を超えた、ひとりひとりの人に対するフェアー(fair)の精神なのです。スタジアムを設計された梓設計のプロジェクトメンバーは、全員がこの巨大な施設にあってもなお等身大であり続けるタフな建築家であると共に、スポーツを愛し支える市民でもあり続けたのです。この先ここに街が作られてゆく中で、サッカーを愛し、支える市民が育ってくれることを、一観戦者の僕も願わずにはいられません。

*注: 本稿での「市民」という言葉は、外国人や周辺地域の人々を含めた一般市民という意味で使われています。

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■ 配置
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■ 客席平面

■ 屋根伏
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■ 断面
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■ サイドスタンド側立面
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■ バックスタンド側立面
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