Stadiums with Membrane Structures for 2002 FIFA World Cup KOREA / JAPAN TM
新潟県スポーツ公園新潟スタジアム ビッグスワン
インタビュー 図版
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所在地: 新潟県新潟市清五郎68番地
設計: 日建設計
施工: 第1工区:鹿島建設 北陸支店・福田組・加賀田組JV
第2工区:清水建設 北陸支店・本間組・丸運建設JV
第3工区:大成建設 北信越支店・第一建設・ロッテ建設JV
監理: 新潟県、日建設計
用途: スポーツ観覧場
建築面積: 36,702.67m2
延床面積: 88,417.71m2
構造: 主体構造:鉄骨鉄筋コンクリート造一部プレキャスト鉄骨鉄筋コンクリート造
屋根構造:鉄骨造及び膜構造
屋根形式:ダブルクロスアーチ+テンションリング構造
膜種類: テフロン膜(ガラス繊維膜、四フッ化エチレン樹脂コーティング)
膜面積: 23,500m2
スタンド傾斜角度: 32°
階数: 地上5階
竣工: 2001年3月竣工
収容人員: 42,279席

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インタビュー 舘清夫(日建設計)
(インタビュアー:高橋真)

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海と空の間のビッグスワン/新潟県スポーツ公園新潟スタジアム
水面の白鳥
優雅に水面に佇む白鳥も、見えない水の中の足はばたつかせて風や水の流れに抗っている、と言われます。様々な厳しい条件のなかで、何事もなかったかのように泰然として見えるのは、人知れず大変な苦労をしているのだ、と言う例えなのでしょうか。
コンフェデレーションカップの中継で、全国の注目を浴び、市民にもすっかり定着した「ビッグスワン」。FIFA(国際サッカー連盟)の公認サッカースタジアムであるとともに公式陸上競技場でもあるこの施設は、白鳥の翼に例えられるテフロン膜屋根と、それを支える大構造体の姿からいつしかそう呼ばれるようになりました。
夕刻に訪れた無人のスタジアムは、多くの複雑な取り合いや負荷にもかかわらず、何事もなかったかのようにのびのびとその形態を唄っています。
とても仕立ての良い建築物、という印象を受けました。やはり大白鳥の所以でしょうか、このさりげなさはただごとではありません。優雅に架けられた大架構を後にした帰路、僕は「水の中の足」のことを考えないわけにはいきませんでした。造形と設計、構造や建設の技術、生産と施工のスキル、何事もないかのようなその姿はそれらの働きの一体性を物語ってもいるからです。

鳥屋野潟のランドマーク
photo鳥屋野(とやの)潟は、新潟市をはさんで日本海と反対側の内陸に位置する信濃川と阿賀野川にはさまれた湿地帯に位置しています。新潟県スポーツ公園は、豊かな自然環境を残す、鳥屋野潟公園の一部として計画されています。
スタジアムのスケールを周辺施設の環境になじませるため、設計者は巨大なスタジアムを更に巨大な基壇で取り巻く、という大業によって立体的スケールの連続性を作り出したのでした。インタビューに答えて、設計チームを率いた日建設計の舘さんはプロポーザルの時点からそれをねらっていたことを語ってくれました。地盤面を掘り下げる等の土木的手法は地下水位の高いこの場所では無理です。しかし平坦な土地と、圧倒的に広い空を持つこの建物に、基壇を設けるという大胆な手法は有効に働きました。スタジアムは、周辺施設との連続感と、大観衆の為のバッファーゾーンを得たのです。また、この基壇部は、冬場のスタジアム大屋根からの落雪を安全に受け止めるためにも使われています。
周辺の広がりと大きな空を持つ鳥屋野潟をはさんだ遠景は、この建物の建築的表現に欠かせぬ視点となりました。隠れようもないその姿は鳥屋野潟のランドマークとして誰もが認めるものとなったのです。ビッグスワンの名称も、膜屋根の形態からの連想だけでなく、鳥屋野潟の風景と広い空をたったひとつの建物で担う象徴的なたたずまいが更にそのイメージをかき立てているのではないかとも思えました。

大白鳥の翼
photoそして、言うまでもなく、白鳥の姿を思わせるのは象徴的な白い膜屋根の形態です。屋根は、スタンド最上段、スタジアムの全周に回されたテンションリングと呼ばれる立体トラスのフレームの上に、井桁状に架けられたダブルクロスアーチと呼ばれる2対の立体トラスの大アーチによって支持されてます。屋根の形は20のサブアーチから、ダブルクロスアーチに向かって架けられた梁が作るシェルによって出来ています。それぞれのサブアーチの付け根からメインアーチの間には、サブビームと呼ばれる立体トラスの梁が渡され、メインアーチとテンションリングを繋いでいます。それらの多くの構成部材は現場で溶接され、一体のものとされています。シェル面を覆うテフロン素材の膜屋根も、縫い目を梁に重ねる等の工夫によって、文字通り仕立てよく仕上がっています。サブビーム上に設けられた膜屋根に張力 を与えるためのガイドパイプは、それぞれのシェル形状に沿ってねじられているのだそうです。
サブアーチ部分はスタンドとピッチに風を導くために空けられています。このデザインは形や通気の為だけでなく、風による構造的な負荷をかなり低減出来ることが風洞実験によって確かめられてもいるそうです。
複雑に組み合わされるトラスの接点には、様々なタイプの鋳鋼製品のジョイントが使われています。また、屋根のみならずスタンド部分にもプレファブリケーション化を進めた設計と施工の技術の限りがつぎ込まれています。
しかも屋根とスタンドの取り合う形態は球面の一部を切り取った緩い三次元のサインカーブ状の立体です。
それらの技術や形態を、このスケールのなかで統合してゆくことは並大抵のことではありません。「白鳥の足」は、水の中ではなく、設計から竣工までの過ぎ去った時間の中で大変な仕事をこなしてきたのです。そして、その途方もない仕事の積み重ねが、複雑な形態のさりげない一体感を作り出しているのです。

総合的であること
photo計画と形、形と構造、構造と施工、施工と技術、建設技術とファブリケーターたちのスキル(わざ)、そのすべては様々な段階で重なり合い、一体のものとなってこの建物のために働いてきているかのようです。設計という技術がここでは統合する技術を示すのではないかとさえ思えます。
しかし、かつてであればそのような統合化は計画から現場まで熟知した超人的な建築家の仕事を示すものでしたが、現在のニュアンスは少し異なっています。おそらくそのもっとも大きな理由は、文字通り超人的な演算処理をこなすコンピューターが、建築の世界にあっても、様々な業種の隅々にまで行き渡ってきたことでしょう。コンピューター処理を前提とした設計と生産の間には、以前ほど「標準品」と「役物」の差が無くなってきています。この現場でも、様々な鋳鋼部品や、大きな曲率で曲げられたトラス部材が、逃げを許さぬ全溶接で組み立てられていますが,それらの各部品は、いつでも全体との関連を確かめられるデーター上で設計されたものです。部分はいつも全体の一細部であり続けるのです。同じデーターを共有する限り設計の全体性は失われないのです。
では、「全体」に対してどこまで行ってもつじつまの合う「細部」の前に、「部分」は意味を失ってゆくのでしょうか。その答えは今はまだ見えません。
しかし、この建物の設計と施工の過程で、様々な生産社会のなかでの統合化の努力を水面下に沈んだ白鳥の足に見立てました。設計者は各レベルの仕事の調整だけでなく、目的と意志を持った統合化を進めてきたのです。
そしてIT技術が普遍化した近未来、意志を持つ設計者が自らの存在証明のために、見えない足で懸命に水を掻くのは、きっと「情報の海」の水面でなのかもしれない、という予感はこの建築の中に見え隠れしているように思えるのです。


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■ 配置
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■ 3階平面

■ 5階平面
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■ 断面

■ 屋根架構
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